本棚にある本を見て思う。
なぜ自分はこんな本を持っているのか?
これは自分が買ったものなのか? 思い出せぬ。
さながら記憶を亡くした悲劇のリア王のように。
そのひとつが著者ジョン・K・ガルブレイスの「不確実性の時代」という経済について書かれた本。
80年代にはベストセラーになった本の再編版らしい。
真新しく、まだ綺麗な状態なのだが、いつ買ったのかも分からない。
よくよく思い出してみれば、ああ――かつて経済学の講義で勧められて買ったのだ。一度も読んで居なかったのだが。
あの時に経済学を教わったのは20代後半の女の講師だった。
僕は真面目な奴で学部の成績は1番だったが、女教師の時は特に学習意欲が高まった。
きっと男なら誰だってそうだろう。
象牙の塔にいる若い女講師は珍しいのだ。
講義が終わったあとも、質問と称して話をしていたものだ。
あの頃は、とある2次創作の物語を書くのが趣味で毎日のように書いていた。
短編集を毎日書いていたのだが、それに書くネタを日々探していたのだが、博識で様々な分野の専門家の講師陣と話していると色々なネタを仕入れることができた。
その女講師は経済学の専門なので、質問と称して会話する内容も、経済の延長のことばかりになってしまう。
ある日NPOだかの話題になったときに、自分の興味のある話に変えてみた。
NPO(非営利活動法人)には神社も含まれる。
だから、ここぞとばかり神社の「巫女」について質問してみた。
その当時、僕は「巫女」の物語を書いていたのだ。
『ところで先生、神社の巫女もそうなんですか?』
「え・・・?そ、そうね」
それまで饒舌に質問に答えてくれた女先生は、水を浴びたような驚きの顔をしていた。
経済学が専門の彼女に、「巫女」について熱心に尋ねたのは僕が最初で最後だろう。
女先生は若干引いていた。
なんだか変な空気になったのを察知して、僕は咄嗟に話題を変えたのだった。
その時に僕は学んだ。
ああ――女の人に「巫女」について熱心に話すと、引かれるのかと。
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